つながらない権利を守るには|勤務時間外の連絡ルールの作り方
2026.10.23
コラム
つながらない権利とは、勤務時間外の仕事の連絡に応じなくてよいとする権利のことです。法律にはまだ定めがありませんが、時間外の連絡に対応した時間が労働時間に当たれば、会社は今でも賃金を支払わなければなりません。連絡のルールを決めて対応した時間を記録しておけば、従業員も安心して休めます。ルールに盛り込む7項目、労働時間になる場面、導入と点検の進め方を説明します。
つながらない権利とは、勤務時間外の仕事の連絡から離れる権利
つながらない権利とは、勤務時間外に届いた仕事の連絡に応じなくてよいとする考え方です。スマートフォンやビジネスチャットが広まり、終業後や休日でも上司や取引先から連絡が届くようになりました。いつでも連絡が取れる状態が当たり前になると、仕事と私生活の境目があいまいになり、勤務時間外にも仕事が入り込みます。本来は休むための時間をどう守るかという問題として、つながらない権利が注目されています。
つながらない権利を職場で守るには、どの連絡には応じ、どの連絡は翌営業日に回してよいかを、会社と従業員があらかじめ決めておく必要があります。日本には法律の定めはありませんが、厚生労働省の労働基準関係法制研究会の報告書も、こうしたルールを労使の話し合いで決めるよう提言しています。
つながらない権利のルールが職場に必要な理由
夜や休日も連絡が来るかもしれないと思っていると、気持ちが仕事から離れません。休んだつもりでも疲れが抜けず、そのまま次の勤務を迎えることもあるでしょう。
返信するかどうかを本人任せにしている職場では、すぐ返信する人ほど頼りにされ、連絡が集まりやすくなります。その結果、一部の従業員だけが時間外の対応を抱え込むことになりかねません。
時間外の返信は労働時間に当たることがあり、記録されなければ未払いの残業代や長時間労働の見落としにつながります。連絡のルールは、従業員が安心して休める職場をつくり、会社の勤怠管理を正しく保つためにも必要です。
つながらない権利と労働時間、時間外の連絡対応の扱い
時間外の連絡に対応した時間が労働時間になるかどうかは、労働者が会社の指揮命令下に置かれていたかどうかで、客観的に判断されます。
【判例】三菱重工業長崎造船所事件
最高裁第一小法廷 平成12年3月9日判決
労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、労働契約や就業規則などの定めによらず客観的に定まる。
厚生労働省の労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドラインも、会社の明示または黙示の指示で業務をした時間は労働時間に当たるとしています。具体的な場面に当てはめると、次のようになります。
| 場面 | 労働時間の扱い | 判断の手がかり |
|---|---|---|
| 終業後に業務メールが届き、翌営業日に確認した | 受信しただけでは労働時間にならない | 会社が返信や確認を求めていない |
| 終業後、上司から回答を求めるチャットが届き、回答した | 回答に要した時間は労働時間に当たる | 上司の求めに応じて業務をしている |
| 休日に、連絡があれば直ちに対応するよう会社から求められている | 作業した時間に加え、待機時間も労働時間に当たる可能性がある | 労働から離れることが保障されているか |
| 会社の指示はないが、返信しないと翌日の業務が回らない | 黙示の指示があったと評価される可能性がある | 返信を前提に業務が組まれているか |
待機時間の扱いは、次の判例が参考になります。
【判例】大星ビル管理事件
最高裁第一小法廷 平成14年2月28日判決
仮眠室での待機と、警報や電話への即時対応を義務付けられた仮眠時間は、労働からの解放が保障されていないため労働時間に当たる。
自宅などでの待機は、行動の自由がどの程度制約されているかによって労働時間かどうか判断が分かれます。
1回の対応が数分でも、労働時間に当たるのであれば時間を記録し、その時間に対しては賃金を支払う必要があります。たとえば1回10分の返信でも、平日に毎日続ければ月20日で合計200分(3時間20分)になります。1回ごとは短くても、賃金を支払っていなければ、記録に残らない未払いの賃金が毎月積み重なっていきます。
つながらない権利の社内ルールに定める7項目
社内ルールには、次の7項目を盛り込んでおくと、連絡を送る管理職も受ける従業員もどう対応すればよいか迷いにくくなります。項目ごとに、自社で実際にあった連絡を例として添えておきましょう。
| 項目 | 決める内容 | 例 |
|---|---|---|
| ①対象とする連絡手段 | ルールを適用する手段の範囲 | メール、電話、ビジネスチャット。私用のメッセージアプリでの業務連絡は原則禁止 |
| ②対象とする時間帯 | 勤務時間外として扱う時間 | 所定労働時間外、週休日、年次有給休暇中 |
| ③原則の扱い | 勤務時間外に返信や確認を求めるか | 勤務時間外は返信を求めない。送る側は予約送信で翌営業日の始業時刻に届ける |
| ④緊急連絡の条件 | 勤務時間外でも対応を求めてよい場面 | 取引先への納品が止まるシステム障害は対象。翌日の会議資料の確認は対象外 |
| ⑤緊急時の連絡経路 | 誰が誰に、どの手段で連絡するか | 当番者の電話に限り、当番以外の従業員には連絡しない |
| ⑥対応した時間の申告 | 申告の方法、期限、承認者 | 勤怠システムに対応時刻と内容を入力し、翌営業日までに上長が承認する |
| ⑦不利益な取扱いの禁止 | 連絡に応じなかった場合の扱い | 勤務時間外の連絡に応じなかったことを理由に、人事評価を下げない |
④については、対象になる連絡とならない連絡を、具体例で並べておきましょう。
⑦は法律上の義務ではありませんが、明記しておかないと、従業員は評価を気にして返信を続けるおそれがあります。
規程の置き場所と就業規則の変更
ルールを定める場所は、就業規則の本則、別の規程(情報機器の利用規程など)、社内通知のいずれかです。どこに置く場合でも、次の点に注意してください。
- 緊急対応の当番や待機に手当を支払う場合は、その手当について賃金規程に定める必要があります(労働基準法第89条第2号)
- 休日の待機当番を新たに義務付けるなど、従業員の負担が増える変更は、労働条件の不利益変更に当たる可能性があります。変更の必要性と内容の相当性を説明できるようにしておきましょう(労働契約法第10条)
労使での協議は法律上の義務ではありませんが、時間外の連絡の実態は部署ごとに違うため、ルール案の段階で従業員の意見を聞いておきましょう。
つながらない権利への対応手順と、運用の点検方法
つながらない権利への対応は、次の順に進めると、部署ごとの実態に合ったルールになります。
- 実態を調べる部署ごとに、勤務時間外の連絡の件数、手段、送り手(社内か取引先か)を調べる。従業員へのアンケートと送信記録の両方を使う
- 連絡を分類する時間外の連絡を、翌営業日でよいもの、当日中に必要なもの、直ちに対応が必要なものに分ける
- 緊急対応の体制を決める直ちに対応が必要な業務について、当番制の有無、連絡経路、手当の有無を決める
- ルール案に意見を聞く社内ルール案を作り、従業員側の意見を聞く
- 規程を整えて周知する就業規則や規程を整え、従業員に周知する。管理職には、連絡を送る側として守る手順を説明する
- 運用を見直す運用を始めた後は、一定期間(たとえば3か月)ごとに運用状況を確認し、ルールを見直す
運用状況の確認では、まず勤怠記録とメールやチャットの送信記録を突き合わせてみてください。ガイドラインも、自己申告の労働時間が実際と合っているかを必要に応じて調べ、補正するよう会社に求めています。
あわせて、申告しにくい雰囲気がないかも確かめましょう。ガイドラインは、申告できる残業時間に上限を設けるなど、適正な申告を妨げる措置を禁じています。「時間外の連絡は禁止」とだけ伝えると、対応してしまった人が申告をためらうかもしれないため、申告の方法も一緒に伝えておきましょう。
業務量と納期の見直しも欠かせません。翌朝までの資料作成を求めたまま終業後の連絡だけを禁じても、自宅での作業が記録に残らなくなるだけです。時間外の対応を記録する仕組みと、時間外の対応を減らす工夫は、分けて考えましょう。
つながらない権利のよくある質問
管理監督者にもつながらない権利のルールを適用しますか
管理監督者には、労働時間・休憩・休日の規定は適用されませんが、深夜割増賃金の支払いと、労働安全衛生法による労働時間の状況の把握は会社側の義務として残ります。受け手としてルールの対象に含めるかは、健康確保の観点から会社で決めてください。いずれにしても、連絡を送る側になり得る管理監督者にはルールを知って、守ってもらう必要があります。
取引先から勤務時間外に連絡が来る場合はどうすればよいですか
取引先からの連絡は、受け方を社内で決めておきましょう。営業時間と時間外の連絡先を取引先に伝えておけば、時間外の連絡は当番者や代表の窓口で受けられます。メールの自動返信で、翌営業日に対応すると知らせる方法もあります。
「繋がらない権利」のために、私用スマートフォンの通知を切ってよいと定めてもかまいませんか
かまいません。私用のスマートフォンに業務用のチャットを入れている場合、勤務時間外は通知を切ってよいとルールに書いておくと、従業員は気兼ねなく通知を切れます。その代わり、緊急時の連絡経路は電話など別の手段に決めておきましょう。
つながらない権利の対応状況チェックリスト
- 勤務時間外の連絡の件数と手段を、部署ごとに把握している
- 終業の打刻後のメールやチャットの送信記録と、勤怠記録を突き合わせたことがある
- 緊急連絡に当たる場面と当たらない場面を、具体例で示している
- 緊急時の連絡経路と当番者を決めている
- 時間外に対応した時間の申告方法を決め、従業員に伝えている
- 時間外の連絡に応じなかったことを理由に不利益な取扱いをしないと明示している
- 待機に手当を支払う場合、賃金規程に定めている
- 時間外の連絡対応の時間も含めて、36協定の時間数を管理している
- 管理職に、連絡を送る側として守る手順を説明している
勤務時間外の連絡ルールづくりのご相談
社会保険労務士法人おぎ堂事務所では、勤務時間外の連絡ルールづくりから、就業規則や賃金規程の見直しまでお手伝いしています。今の勤怠記録で時間外の対応を把握できているか、当番の手当をどう定めるか、不利益変更に当たる点はないかなど、会社ごとの状況に合わせて確認できますので、お気軽にご相談ください。
