1か月単位の変形労働時間制 シフト運用で失敗しない5つのポイント
2026.09.02
コラム
1か月単位の変形労働時間制でつまずきやすいのは、導入の手続きよりも導入後の運用です。この制度は、繁忙日の残業代を減らせますが、その代わりにいったん確定したシフトを後から変えられないというデメリットもあります。導入後の運用で注意すべき点を、シフトの確定と変更、残業代の計算、休日、適用できない従業員の順に整理します。
1か月単位の変形労働時間制とは
1か月以内の期間を平均して、1週間あたりの労働時間が40時間以内に収まっていれば、特定の日に8時間を、特定の週に40時間を超えて働かせても、その超えた時間を割増賃金の対象にしなくてよい、という制度です(労働基準法32条の2)。
たとえば月末が忙しい職場であれば、会社は月末の週について1日の所定労働時間を10時間に設定し、その分だけ月初の週の所定労働時間を減らすことができます。月全体の平均が週40時間以内に収まっていれば、1日10時間と定めた日について、8時間を超える2時間分は残業になりません。
平均を計算する対象の期間を変形期間と呼びます。この記事では1か月として説明します。
変形期間が始まる前にシフトを決めておくことが重要です
変形期間が始まる前に、会社が各日・各週の労働時間を具体的に特定しておくことが条件です。
導入しても36協定は必要です
変形労働時間制を導入しても、36協定が不要になるわけではありません。シフトで定めた労働時間を超え、かつ法定労働時間を超えて働かせるには、会社は36協定の締結と労働基準監督署への届出が必要です。
導入方法と届出、変形期間の起算日
導入方法は労使協定と就業規則の2通りで、どちらでも構いません。届出の要否は、導入方法と事業場の人数で変わります。事業場とは、本社や各拠点など場所ごとの単位を指します。
| 導入方法 | 労基署への届出 | 備考 |
|---|---|---|
| 労使協定で定める | 必要(人数を問わない) | 様式第3号の2を使用。協定に有効期間の定めが必要(労働基準法施行規則12条の2の2) |
| 就業規則で定める (常時10人以上の事業場) |
必要 | 就業規則の届出義務による(労働基準法89条) |
| 就業規則に準ずるもので定める (常時10人未満の事業場) |
不要 | 従業員への周知は必要 |
労使協定を届け出ただけでは足りません
労使協定は、法定労働時間を超えて働かせても会社が罰則を受けないようにするためのものです。会社が従業員に対して、その日は10時間働いてくださいと指示する根拠になるのは就業規則です。労使協定で導入する場合も、就業規則に変形労働時間制を採用する旨を規定してください。
変形期間の起算日を明示する
起算日は、就業規則または労使協定で明示します(労働基準法施行規則12条の2第1項)。毎月1日など、誰が見ても同じ日を指す書き方にしてください。
シフトの事前確定が制度の適用要件で、確定後の変更は原則できません
事前に確定していない月は、制度が適用されません
各日・各週の労働時間を事前に決めるとは、実務ではシフト表を確定し、従業員に周知することを指します。
シフト表が変形期間の開始前に確定していなければ、その月は変形労働時間制が適用されなかったものとして扱われます。1日8時間・1週40時間を超えた時間はすべて割増賃金の対象になり、制度を導入した意味がなくなります。就業規則を整備していても、シフト表を月の途中で出している運用であれば、変形労働時間制は適用されません。
変更できるのは、就業規則に書いた事由に限られます
トラブルが多いのは確定後の変更です。会社の都合でいつでもシフトを変えられる運用は、そもそも変形労働時間制とは認められません(昭和63年1月1日基発第1号、昭和63年3月14日基発第150号)。
確定したシフトを変更できるのは、会社が就業規則に変更できる事由を具体的に書いている場合に限られます。就業規則に「業務上の都合により変更することがある」とだけ書いても足りません(JR西日本(広島支社)事件・広島高裁平成14年6月25日判決、労働判例835号43頁)。
就業規則に規定できる変更事由は、次のようなものです。
- 天災や機械の故障といった、緊急でやむを得ない事情
- 本人の同意があり、同一週内で振り替えるなど不利益が生じない場合
客足や人手の過不足を理由とする変更は認められません。こうした変更が常態化すると、変形労働時間制そのものが認められなくなります。
制度を有効に保つ5つのポイント
- 勤務パターンをすべて洗い出し、就業規則に規定する早番、遅番、通し勤務など、実際に組んでいるパターンの始業終業時刻を列挙します。就業規則にないパターンでシフトを組んだ時点で、事前確定の要件を満たさなくなります。
- シフト確定後の変更は極力避ける欠員が出たときは、シフトを組み替えるのではなく、その日に出勤している従業員に担当を替わってもらうか、時間外労働で対応してください。どちらの方法も、あらかじめ定めた労働時間そのものを動かさないため、リスクが小さくなります。
- シフトは変形期間が始まる前に確定し、個別に周知する掲示だけでなく、勤怠管理システムの通知やチャットなど、誰にいつ伝えたかが記録に残る方法を使ってください。
- 変更した場合は理由を記録に残す就業規則に定めたどの事由による変更かを記録に残しておかなければ、後から変更の適法性を説明できません。変更履歴が残る勤怠管理システムなら、備考欄の活用で足ります。
- シフトを超えた時間はすべて把握するただし、シフトで定めた時間を超えたからといって、その時間がすぐに割増賃金(1.25倍)の対象になるわけではありません。割増賃金の要否は、次の3段階で判定します。
なお、上限時間の判定と、休日が足りているかの判定は別です。1日の労働時間を短く組めば、休日が不足していてもその月の上限時間には収まってしまいます。シフトを組む段階で、週1回または4週4日の休日を配置してください(労働基準法35条)。
変形労働時間制の残業代は3段階で計算する
割増賃金は、日、週、変形期間全体の順に3段階で計算します(昭和63年1月1日基発第1号)。同じ時間を二重に数えないよう、前の段階で数えた時間は次の段階から除きます。
| 段階 | 対象になる時間 | 例 |
|---|---|---|
| 1日ごと | その日の労働時間として8時間を超える時間を定めた日は、定めた時間を超えた分。それ以外の日は8時間を超えた分 | 10時間と定めた日に11時間働けば、1時間が対象 |
| 1週ごと | 40時間を超える時間を定めた週は、その定めた時間を超えた分。それ以外の週は40時間を超えた分(1段階目で数えた分を除く) | 40時間と定めた週に43時間働けば、3時間が対象 |
| 変形期間全体 | 上限時間を超えた分(1段階目・2段階目で数えた分を除く) | 31日の月に180時間働けば、177.1時間を超えた分が対象 |
3段階目で使う変形期間全体の上限時間は、その月の暦日数で決まります。
| 月の暦日数 | 上限時間 |
|---|---|
| 31日 | 177.1時間 |
| 30日 | 171.4時間 |
| 29日 | 165.7時間 |
| 28日 | 160.0時間 |
1週間の起算日も就業規則で定める
1週間の起算日を就業規則で定めていない場合は、日曜日起算として扱われます(昭和63年1月1日基発第1号)。月末月初をまたぐ週の判定に影響するため、就業規則に明記してください。
導入時の初期設定を確認する
この計算に対応している勤怠管理システムや給与計算システムもあります。ただし、対応していても初期設定が正しくなければ結果は合いません。変形労働時間制の対象者がシステムに登録されていない、シフトの所定労働時間が設定と合っていない、といった状態では割増賃金が正しく判定されません。導入後の最初の1、2か月は、システムが出した集計値を手計算で検算してください。
変形労働時間制を適用できない従業員がいます
- 満18歳未満の従業員
満18歳未満の従業員には、原則として変形労働時間制を適用できません(労働基準法60条)。例外として、中学校の卒業後(満15歳に達した日以後の最初の3月31日を過ぎた者)に限り、1週48時間・1日8時間を超えない範囲で適用できます(同条3項2号)。18歳未満のアルバイトを雇用している場合に、確認が漏れやすい箇所です。 - 妊産婦(妊娠中および出産後1年以内の女性)
本人が請求した場合、会社は1日8時間・1週40時間を超えて働かせることができません(労働基準法66条1項)。請求があって初めて適用が外れるため、会社は請求の受け付け方法を決めておく必要があります。
よくある質問
シフト表はいつまでに確定させる必要がありますか
変形期間が始まる前までです。毎月1日を起算日とするなら、前月末までにシフト表を確定し、従業員に周知します。月の途中で後半分のシフトを出す運用は、事前確定の要件を満たしません。
1ヶ月単位の変形労働時間制を導入すれば、残業代は発生しなくなりますか
残業代は発生します。この制度で抑えられるのは限られた範囲であり、シフトで定めた時間を超えた労働と、上限時間を超えた労働には割増賃金が必要です。
変形期間の途中で入社・退職した従業員はどう計算しますか
1か月単位の変形労働時間制には、変形期間の途中までしか働いていない人の賃金を清算する規定がありません。その従業員については変形期間全体の上限で判定できないため、日と週の法定労働時間を基準に計算する方法が安全です。
自社の運用を点検するチェックリスト
次の項目のうち、ひとつでも当てはまらないものがあれば、その月の変形労働時間制が認められないリスクがあります。
- 就業規則に変形労働時間制の定めがある(労使協定で導入した場合も含む)
- 変形期間の起算日が定められている
- 実際に組んでいる勤務パターンがすべて就業規則に規定されている
- シフトを変形期間が始まる前までに確定し、個別に周知している
- シフト変更の事由が就業規則に定められ、変更時に記録を残している
- 週1回または4週4日の休日が、シフト上で確保されている
- 給与計算で3段階の判定を行い、月ごとの上限時間を切り替えている
- 満18歳未満の従業員を対象から除外している
- 労使協定で導入した場合、有効期間の満了前に更新している
当事務所では、就業規則と労使協定の点検に加えて、シフト運用ルールの設計と給与計算設定の確認まで対応しています。
導入したものの、この運用で合っているか分からないという段階でご相談ください。現在のシフト表と就業規則を拝見すれば、リスクのある箇所をお伝えできます。
